No.22 中国勤務時代のエピソード3

 No.11で現地法人の資金繰りの問題をお話ししましたが、今回は増資の件でお話しします。
 中国に赴任して1年半くらい経過し、当初の混乱期を抜け出し、少しづつ会社としての体裁が整ってきた時期です。事業が急成長し始めて、運転資金の調達に四苦八苦していました。財務責任者であった私としては、何とか資金調達を進めて、会社運営を確固たるものにしたいところでした。
 しかし、その時点では現地法人は一時的に債務超過の危機に陥っており、現地金融機関からの資金調達も、一筋縄ではいかない状況でした。そこで、日本本社の支援部門と相談し、本社からの増資を検討することになりました。当時の現地法人は、機器装置などの製造工場を持っているわけではなく、ソフトウェア開発やSI事業が主体だったので、大規模な設備投資資金が必要というわけではなく、純粋に通常の運転資金として不足分を増資してほしかったのです。しかし、本社側もちょうどその当時はキャッシュフローが悪化していた時で、なかなか増資を認めてもらうのは容易ではありませんでした。
 財務報告書や事業報告書を揃えて東京出張し、増資の必要性を説明することになりました。事務方との調整は終え、最後にK常務(当時。その後社長)にご報告する段になりました。一通り私から説明を終え、K常務から「それで結局いくら必要なんだ?」と聞かれました。私は「100万米ドル、できれば200万米ドル頂きたい。」と答えました。最低限で債務超過を脱して、安定的に会社運営するためには100万米ドル。しかし、財務責任者としてはリスクを考慮して、できれば200万米ドルほしい、と率直に言ったわけです。しかし、「そんないい加減なことでどうする!」と大叱責されました。本社としても非常に厳しい状況で、経営者として増資という重大な意思決定を行う責任があり、そのような曖昧な回答ではだめだ、ということなんですね。
 ただ、現地法人としては、その時点では資金難でしたが、間違いなく発展していくことができると私は確信していました。(詳細は余り言えませんが、No.11で一部説明しています。)そうこうして、なんとかK常務のご承認を得て、結局頂いた増資額は期待額を超える210万米ドルでした。(端数がついているのは、中国の外国企業投資法の関係で、この金額にすることで一つのメリットがあったため。)
 増資を得てからの現地法人は、見違えるように業績も順調に拡大し、マネジメント上でも日本側の期待に応えることができるようになっていきました。私が4年間の勤務を終え、日本に帰任する段になり、K常務が現地に視察訪問される機会がありました。現地の各責任者のプレゼン等が一通り終わり、フリートーキングになった時に、K常務から「よくやったな。ご苦労さん。」と言われた時は、4年間の苦労が報われた思いがしました。
 その後、K常務は本社社長に昇格されたのですが、健康上の理由で退任され、ほどなくしてお亡くなりになられました。K常務からは、増資の件以外にも、現地で大叱責を頂いたことがあり、仕事の厳しさを勉強させられました。しかし、最後の労いの一言が私の大きな糧になっている気がします。