No.24 地平線に昇る朝日

 先日、あるセミナーに参加した。海外事業展開に関するテーマだったのだが、講師のT氏が知り合いだったことが参加動機でもあった。
 T氏とは、中国の北京駐在時に同じ公寓(中国で言うところのマンション)に住んでいたこと、また子供が息子、娘とも日本人学校の同じ学年だったということもあり、親しくお付き合いさせて頂いた。当時T氏は石油商社マンで、ロンドンや世界各地の駐在経験があるという国際人。北京から日本帰国後は中小企業診断士の資格を取得し、海外市場開拓を図る企業向けにコンサルの仕事をされているのを新聞等で読んで私も知っていた。
 セミナーの途中の休憩時間にご挨拶させて頂いた。「お久しぶりです。北京でお世話になった山田です。」「・・・・・?」「内モンゴルの旅行でご一緒した・・」「ああっ!」思い出していただいた。
 15年ぐらい前になるだろうか。北京で同じ公寓で親しかったことで、一度内モンゴルへの旅行をしたのだ。私と妻、娘の一家とT氏のご一家(T氏、奥様、娘さん)、それから娘のピアノの中国人家庭教師とその家族など、総勢10人ぐらいだった。(息子は確か日本の高校受験のために参加できなかった。)北京駅を夜遅く列車で出発して、翌早朝に内モンゴル自治区の州都フフホトに到着。さらにバスに乗って3時間ぐらいだっただろうか、見渡す限りの草原地帯に到着した。
 早速、現地の遊牧民が暮らすパオで食事をする。現地での主食は羊肉。煮たり焼いたり、羊肉尽くしの料理が出てくる。しかし、列車とバスで長距離を乗ってきたところで、少々癖のある羊肉料理は子供達には(大人にも)ちょっときつかったようだ。羊のミルクやチーズなど乳製品は何とか大丈夫か。
 夜になって、空を見上げると、まさに満天の星だ。草むらに寝転がって仰向けになる。夜空に吸い込まれていくような感覚に陥る。昴の世界だ。時間がたつのを忘れる。
 次の日の早朝、朝日を見ようと暗いうちに一同起き出してパオの外に出た。ここは360度見渡す限り地平線しか見えない草原地帯だ。ほとんど雨も降らないので、確実に日の出が拝める。暫くすると東の地平線が段々と明るくなってきた。そして、ついに太陽のてっぺんが見えた!ご来光に向かって拍手をする。ところが、娘から「え?まだ見えないよ。」との声。「どうして?もう太陽が見えているじゃないか!」「見えないよ。」「?!」娘の目線にまで身を屈めると何とまだ太陽は見えなかったのだ!娘にようやく見えたのは2分くらい経った後だっただろうか。身長差によって日の出の時刻が違うという、日本ではありえない経験であった。
 セミナーでT氏と名刺交換し、近況報告させて頂いた。他の受講者の方々もいたので、あまり長話はできなかったが、懐かしい思い出が蘇ったひと時であった。