No.25 紅海のサンゴ礁


 約30年前、エジプトに出張に行った時の話である。当時、私は経理部門に所属していたのだが、海外のプロジェクトや駐在員事務所の現地税務申告、資金管理などを担当していた。地域的には、ほとんど中近東・アフリカ地域が担当であった。
 エジプトについても、税務申告業務や現地駐在員事務所の支援のため、何度か現地に出張した。現地の会計士や事務所の会計担当者との調整などで1回行くと数日から10日前後要した。ある時、休日が間に入った時に、現地事務所のメンバーから、シナイ半島にでも行ってみないかと誘われた。休日にホテルにいても暇なので、一も二もなく賛同し、ご一緒させてもらった。
 日本人、現地スタッフ含めて数名、車に乗って夜カイロを出発した。行先はシナイ半島の南端近くのシャルムエルシェイクという紅海に面したリゾート地だ。バカンス期間中は欧州などから多くの観光客が押し寄せるらしい。(昨年10月に、当地発のロシア民間機が爆弾テロで墜落するという痛ましい事故があったので、覚えている方もいるだろう。)
 途中スエズ運河のトンネルをくぐり抜け、シナイ半島の紅海沿いをひた走る。あたり一面は砂漠で、ガードレールなどもないし、道路との境界が混然としていてよくわからない。夜間、高速で走っていると、ほんのわずかなハンドル操作ミスでも砂漠に突っ込んでクラッシュしそうな雰囲気だ。時々、砂漠の中に見えるのはそうした時の事故車か?と思いきや、何とあれは中東戦争時の戦車の残骸だとのこと。最後の第4次中東戦争から、その時すでに10年以上経っていたはずだが、まだ生々しい状態で残っていた。
 シャルムエルシェイクに着いたのは翌朝、カイロから10時間くらいかかっただろうか。早速、シャークベイ(名前の通り時々サメが出るらしい)というビーチに降りて、シュノーケリングの道具を借り海に飛び込む。さすが紅海!水の透明度は天下一品だ。水深20メートルは優に超えると思われるところでも海底まできれいに見渡せる。だから、まるで空を飛んでいるような錯覚を覚える。周辺国の海に流れ込む川の工業廃水・生活廃水などが非常に少ないためらしい。従って、サンゴ礁が発達しているのだ。「世界の3大サンゴ礁の奇麗な海」というのがあるらしいが、紅海がそのうちの一つだとのこと。(ちなみに、他の二つはグレートバリアリーフと沖縄。)
 夕暮れ時になり、泳ぐのに疲れて、暫くビーチを散歩していると、日本人と思しき若い男性が一人砂浜に座り込んでいるのに気が付いた。声をかけてみると、何と日本からヒッチハイクで世界一周をしようとしている学生であった。日本を出て、ソ連(現・ロシア)、東欧を経て、この地にたどり着いたとのこと。その夜はビーチで野宿しようと思っていたらしい。何とも気骨のある青年に我々も意気投合し、その夜は我々の宿に一緒に泊めてあげることにした。一晩、道中での武勇伝を聞きながら、これからの彼の旅路の安全を祈った。
 果たして、あの時の彼は今頃どこでどうしているだろうか。