No.27 命の値段?!

 タイトルとして、どうかなとも思ったのですが、あえてこのような表現にしました。勿論、命に値段などあるわけはない、とのご指摘もあろうかとは思いますが、読み進めて頂ければ幸いです。
 「命の値段」と言うと、まず思い浮かべるのは生命保険金などだろうと思います。日本の一般的な生命保険金の死亡時保障額は、契約者本人の年齢や家族構成、年収、社会的地位、などによって変わりますが、数千万円といったところでしょう。
 自動車事故の場合の対人賠償保険の場合は、人身事故の高額賠償の事例などから、さらに数億円から無制限までの保障額になっていることが多いでしょう。私が今回お話しするのは、こちらの自動車保険の方で、中国に行っていたときの事です。
 中国では、非常に自動車事故が多く、私の駐在4年間の間でも、通りがかりで死亡事故を目撃したことが3度ほどありました。救急車を呼んでも、なかなか来ずに、遺体を遠巻きにして野次馬が見ているだけ、という状態のことが多いのにもショックを受けます。助けようとしたことが仇となって、逆に無実の罪を着せられることもあるとの話も聞きますので、何をかいわんやです。
 当時、北京の現地法人でスタッフ業務に携わっていた私は、ある日社有車の自動車保険の見直しのために、保険会社の営業担当を呼んで話をしていました。その担当者が差し出した書類の保険内容を見ていて気が付いたのです。それは、対人賠償と対物賠償の保障額でした。何と、対人賠償の保障額は対物賠償の保障額より低かったのです。確か、対人賠償の方は20万元(当時のレートで約3百万円)で、対物賠償はいくらだったか忘れましたが、その数倍の額でした。
 最初は単純に間違えているのかと思ったのですが、中国の場合はそれが一般的だったのです。欧米や日本の高級車もかなりの数で走っていますが、高い関税と増値税のために日本で通常購入する価格の3~4倍程度はしていました。そのため、対物保障額は結構な金額だったのですが、それに比べて対人保障額の何と低いことか!
 万が一、社有車が人身事故を起こして、相手方が亡くなったり、半身不随のけがを負わせたりした場合を、企業の責任者として想定すべきと考えました。私は、その保険担当者に主旨を説明し、対人賠償保障額がもっと高い保険はないのか、と聞きました。その担当者曰く、「あなたのお考えはよくわかる。しかし、中国の保険はこれが国の定めたルールだ。いやなら契約しなくてよい。」と。
 もう十数年前の話なのですが、当時の中国はまだWTO加盟直後で、色々な国内の規制があり、保険もその一つで国営企業の独占市場でした。従い、他の外資保険会社などの選択肢がなかったのです。止む無く契約はしたものの、やりきれない思いが残りました。
 (ここに記載した内容は、あくまで十数年前の私の経験に基づいた話です。今現在の中国の状況ではありませんので、ご注意ください。)