No.33 海外でのエピソード(イラン編2)

 (前号からの続き)
 中近東の国というと、とかく砂漠の地というイメージがあるかと思うが、テヘランの街は緑が多かった。確か行った時期が5月頃だったと思うが、少し郊外に行くと、森や牧草地が広がり、まだ山頂に雪が残ったエルブールズ山脈が青々としていたのが目に焼き付いている。
 さて、数日間の滞在も終わり、帰国の途に就くため空港に向かう。空港の待合ロビーで座っていると、横にいた50代くらいの人のよさそうなおじさんが、何かが一杯詰まった大きな袋から中のものをひとつかみ取り出して私にあげるという素振りをする。ピスタチオだ。なんだかよくわからないが、袋一杯持っていたピスタチオを、たまたま横に座っていた日本人の私に分けてあげようということだ。むげに断る理由もないし、「ショコラン(有難う)」と言って受け取った。食べてみるとこれが意外と旨かった。イスラム社会では、持てる者が持たざる者にお裾分けするのは当然と考える文化なのだ。
 最後のパスポートコントロールでは、一人ひとりカーテンで仕切られた小部屋で審査官のチェックを受ける。審査官が言った。「Give me money」「???・・・」「Give me money.OK?」何と空港の審査官が金を要求してきたのだ!中近東ではよくある話(公務員がバクシーシ―(賄賂)を要求する)だ。断ると、「You have a wife in Japan.Uh? If you don't give me money, you will be ...」と言って、手で首を絞めるジェスチャを見せた。まるで恐喝だ!しかし、外貨をみすみすと渡すわけにはいかない。残っていたイランリアル(1000円相当くらいあったか)は日本では換金できないので、それを審査官に渡して無事に出国した。先ほどのピスタチオではないが、日本人は金持ち(と思われている)なので、金を持っていない者へ恵むのが当然、ということなのかもしれない。
 帰路の飛行機でも乗客はイラン人が多い。隣の席も40代くらいのイラン人だ。私が機内食を食べ終わり、一休みしようとしていると、その隣のイラン人が目の前の床に毛布を敷いた。また嫌な予感がする。そして、その上に跪くと、私の方に向かって「アラー・アクバル(偉大な神よ!)」とコーラン(イスラム教の法典)を唱え始めたのだ!(おいおい。止めてくれよ!俺は神様じゃないよ!)と言いたいところだ。敬虔なイスラム教信者は1日に5回聖地メッカの方角に向かってお祈りを捧げるのだ。彼から見て私の席の方角がメッカだったということだ。(ちなみに、イスラム国にあるホテルなどでは、部屋の机などにメッカの方向を示す矢印が書かれていることがあるので、もし旅行などで行かれる時は参考に。)